鉱物の部屋


〜若杉山〜


先に述べた水晶山とこの山の水晶は大きく異なる点がある。
それは水晶山とは違い、圧倒的にイミテーションが多い、という事だ。
篠栗町を中心として、粕屋群には宗教関係(主に仏教)の建造物が多い。その篠栗町を代表する山が若杉山である。その為、若杉山は昔から修験者の修行の場として用いられてきた。
その修行の際に水晶を用いることがあったのだが、簡単に水晶が手に入れられるわけではなかったので、ガラスから作られた水晶の模造品が多く用いられた。
もともと若杉山には小さな水晶が幾分かは存在したため、それらを用いることもあったようだが、 小さな水晶を苦労して探し集めるよりも、ガラスで水晶の模造品を作った方が、美しく大きなものを簡単に手に入れられるので重宝された。
それらは使用された後打ち捨てられることが多かったので、今でも若杉山の山腹には大きな水晶の模造品が転々と転がっている。
また、その伝統はその後も続き(修行の際に水晶が使用されることはほとんどなくなったが)、昭和初期までお土産品等としてガラス製の精巧な水晶の模造品が作られていた。しかし、外国産の安価で良質な水晶が大量に輸入されるようになり、 ガラスで水晶の模造品を作る意味が薄れてきたため、今ではその様な模造品が作られることはほとんどなくなった。
その時に大量に売れ残った水晶が山に捨てられた、という話もあるが、せっかく作った商品を果たして捨てるものなのかと疑問である。
ただ、ガラスを溶かせば簡単に作れるものである上、結構大きくかさばるので、どうせ売れないならと山に捨てたのかもしれない。

そのような訳で、若杉山を歩くと、比較的簡単にこれらのイミテーション水晶は見つかる。本物と見間違えるほどの精巧さであり、当時の技術の高さを伺い知ることができる。
これらとは別に、山中の岩の間隙に5ミリ程の水晶が針のようについていることがあり、これは天然の水晶である。

現在では修験者が修行の際に水晶を用いることはなくなったが、今でも若杉山はお遍路さんが多く訪れる神聖な山であり、また観光スポットなので、ハイキング等で出かけて歴史の一端を堪能されては如何だろうか。